※このページは、打ってきた経験と、調べたり教えていただいた情報をもとに
「ソバ粉ってなに?」をまとめているものです。
間違いがありましたら、contactよりお知らせください。
お蕎麦屋さんに行くと、「田舎」「挽きぐるみ」「更科」など、同じ蕎麦でも見た目や香り、味が違うことに気づきますよね。その違いは、品種の違いや殻の有無だけではなく、実は、種子そのものの構造に秘密があるんです!
ソバの解剖:層の違い
ソバのタネを手に取って観る機会はなかなかありませんが、外側には黒く固い殻、その内側に緑色の薄い皮(甘皮)、薄い皮の内側から出てくる胚乳部をギュっと押し潰すと、外側の層は大きく割れ、中心はモロっと崩れて白い粉が出てきます。
右の絵は、横の断面図です。
殻・甘皮・胚乳・胚芽(子葉)が層になっていて、胚乳はさらに「外層」「中層」「芯」の3つの層に分かれています。
それぞれの特徴を見ていきます。


①殻
種子を守る硬い殻。
黒や茶色で繊維質が多く、粒子が大きいとワイルドで力強い風味、粒子が細かくなると微かな苦味や収斂味が楽しめます。

②甘皮
殻の内側にある薄緑色の皮。
タンパク質や繊維質が多く、挽き込み加減で香りやコシに影響。ゆっくり細かく挽くと旨みが濃く、つながりが良い粉に。いっぽうで、挽き方によっては歯にくっつくような食感が生まれます。

③胚乳:外層
胚乳の外側の部分。
タンパク質や繊維質を多く含み、ソバの香りや味が最も強く感じられる。硬いので、粒子が粗く残りやすいです。

④胚乳:中層
胚芽を含む胚乳の中間層。
香りと味のバランスが良く、比較的水分が多いため打ちやすさも担う主要部分です。

⑤胚乳:芯
胚乳の中心部。
高純度のデンプンを含んだ白く柔らかい部分で、打ち粉や、更科粉(御膳粉)に。ソバ特有の香りや風味はほとんどありませんが、デンプンによる甘みと、つるみのある舌触りを生みます。

雑談:ソバの胚芽
米の胚芽は、取り除かれて白米になりますが、ソバの胚芽(子葉)は、胚乳の中心部にねじれるように埋もれており、他の穀物のように取り除くことが難しいため、一緒に挽かれます。
ソバを挽くと「粉」になりますが、粉になるといっても、種子の部位ごとに異なる性質があることが分かりました。
それでは、このソバを“粉”にしていきましょう。
まずは、製粉前に「原料の状態」を整えることから始まります。
製粉前のソバの状態
—原料を設計する
製粉前のソバの状態には、ソバのタネそのものの「玄ソバ」と、外側の黒く固い殻を剥いた「脱皮したもの」とあり、脱皮したものの中でも大まかに「丸抜き」と「挽き割り(挽き抜き)」があります。


玄ソバ
ソバのタネそのもので、これをそのまま製粉すると、いわゆる「挽きぐるみ」とか「田舎粉」と呼ばれる、野趣あふれる黒い蕎麦になります。
その見た目や質感は、石臼での挽き方やフルイのかけ方によって変わってきます。

丸抜き
ソバの形状を維持したまま、殻を剥いたものです。殻のもつ収斂味が取り除かれ、澄んだ味わいの蕎麦になります。
「大きさを◯種類に分けて脱皮し」と書かれていることが多く、細かく分ければ分けるほど種同士の凹凸ムラがなくなり、均一な丸抜きに仕上がるようです。
いまでこそ、黒い粒を取り除く機械がありますが、江戸時代には、ひと掴みの中に剥けていないものが3粒まで、という許容制度で取引がされていたといいます。
すごい精度ですよね。
また、これを割って芯を取り除き(下の挽き割りと同じように)、味の濃い外層部だけを挽いて、風味とつながりのよいお蕎麦に仕立てていたところもあったようです(『蕎麦全書伝』より)。

挽き割り(挽き抜き)
ソバを割り、殻を取り除いたものです。割った衝撃で砕けた柔らかい芯も取り除かれるので、味の濃い外層部が主に残ります。よって、丸抜きを挽いたものよりデンプン割合が低く(タンパク質が多い)、細かい殻が「星」として現れるのが特徴です。
蕎麦にまつわる言葉
実は、ソバ粉を物色していて「ムム?」と思うのが、言葉。
蕎麦は、日本を代表する食べ物で、日本にいる多くの人が同じ共通認識を持っていると思いがちですが、実は、方言などと同じように、蕎麦に関する言葉も全国で統一されたものがないようで、「うちでは、こう言う」というような、聞かないと分からない、地域や製粉所の持つ文化に依存されるものがあるように思います。
例えば、「挽き割り」が「挽き抜き」とか。「丸抜き」が「挽き抜き」や「ヌキ」と書かれていたりする場合があります。
「挽き抜き」が、丸抜きと挽き割り、両方の意味を持っているなんて、ちょっと混乱しますよね。
一歩踏み込まないと分からないことですが、そういった文化背景も一緒に楽しめるのが、ソバの楽しいところかもしれません。
| 原料 | 脱皮状態 | 殻 | 甘皮 | 外層〜中層 | 芯 | 特徴 | |
|---|---|---|---|---|---|---|---|
![]() | 玄ソバ | ー | ◯ | ◯ | ◯ | ◯ | 全て入る |
![]() | 丸抜き | 脱皮 | ー | ◯ | ◯ | ◯ | 殻以外すべて |
![]() | 挽き割り | 脱皮 | △ | ◯ | ◯ | ー | 芯が入らない 味の濃い外層が残る |
以上、原料となるソバの状態を3つ挙げましたが、丸抜きで触れたように、なかには、丸抜きを挽き割りにしたものなどもあります。
どんな特徴を持った原料か、もう分かりますね!
丸抜きを挽き割っているので、丸抜きから芯を取り除いた、味の濃い外層が主となる原料になります。
原料の状態だけでも種類があるので、「どんな粉に仕上げたいか?」を明確にイメージしたうえで、原料をデザインすることから製粉は始まっている、ということが想像できます。
製粉方法
—粉を設計する
製粉とは、穀物などを粉にすることを指します。
ソバは植物分類上は穀物ではありませんが、粉にする工程を同じく「製粉」と呼びます。
このソバを粉にする方法には、「胴搗き」「石臼挽き」「ロール製粉」があり、粉にしたものを「フルイにかける・かけない」によって、ソバ粉が生まれます。
フルイは、製粉の仕上げに使われるものですが、「石臼挽き」と「ロール製粉」でその使用目的は異なります。
「石臼挽き」の場合は、一般的に「挽きぐるみ」となるため、大きな殻などのそば打ちに適さないものを除去するためにおこないます。
いっぽう「ロール製粉」は、内層粉、中層粉、外層粉を分別するためにフルイにかけます。
「胴搗き」の場合は、純粋に胴搗き製粉をおこなっている製粉会社にまだ出会えていないので、詳細は不明です。
【石臼挽き】
古来から使われてきた「回転式石臼」は、溝を刻んだ石を上下に積み、上臼を回転させて穀物を細かく砕く仕組みになっています。大量生産には向きませんが、摩擦熱が少ないためソバの風味を損ないづらく、粒の大きさにばらつきが出ることで麺に弾力が生まれるのが特徴です。
この、「石の種類」や「溝の刻み方(目立て)」、「挽き込み具合」や「速度」によって、粗く挽かれたり、硬い外層が細かく挽かれたりし、異なった個性を持つソバ粉が生まれます。
職人さんの腕が、輝く瞬間ですね!
〈フルイ〉
石臼挽きでは、入れた原料のすべてが粉になります(挽きぐるみ)。その中には、大きなソバ殻の破片など、心地よく食べるのに適さないものも含まれるため、それらを取り除いたり、粉の粒子を整える目的でフルイにかけます。
(フルイにかけない「無篩(むふるい)」でそば打ちをするお店もあります。)
石臼でガララっと挽くのを、イメージしてみてください。
柔らかい芯は細かく砕け、硬い外層は粗い粒として残る、ムラのある粉がでてきます。

これを、粗い目のフルイにかけると、極めて大きな殻が残り、ソバの大部分が下に落ちそうです。黒くて野趣溢れる、ザラっとした蕎麦になりそうですね。
いっぽう、細かい目のフルイにかけると、粗い殻や外層が残り、細い柔らかい芯が主に落ちそうです。これは、前者より色が薄く、味も爽やかでツルっとした蕎麦になりそうですね。
このように、期待するソバ粉を得るために、フルイは目の大きさによって使い分けてられています。この目の大きさの単位を「メッシュ」といい、1インチ間に40本あれば40メッシュ、60本あれば60メッシュなど、1インチ間に張られた糸の数が数値になっています。
数値が大きいと目が細かいので、小さなソバ粉が選別されます。微粒子で揃うため、蕎麦打ちがしやすくなります。いっぽう、数値が小さいと目が粗くなり、粗い粉も入るようになります。蕎麦打ちの難易度は上がりますが、風味が豊かになると言われます。
【ロール製粉】
ロール製粉は、二つのローラーでソバを挟み、高速回転で粉砕。ローラーの隙間を調整することで、内層・中層・表層に分けて挽き分けることができます。
挽き分けられているためブレンドしやすく、効率よく特徴的な粉を大量生産できるのが強みです。また、粉の粒子も均一なため、滑らかで打ちやすいことも挙げられます。
⚫︎内層粉:一番粉・更科粉
隙間をあけ、力を抑えて製粉すると蕎麦の実で一番もろい内層粉が挽けます。この部分を更科粉(御膳粉)とか一番粉と言います。
⚫︎中層粉:二番粉
隙間を狭め力を加えていくと、二番粉が取れます。
⚫︎表層粉:三番粉
そして、最後に三番粉の順で、蕎麦粉を順番に挽きわけることができます。
よく、石臼挽き粉についても、一番〜三番粉といった説明をしているのを見かけますが、「それに近いお粉ですよ」を分かりやすく伝えるものだそうです。
【胴搗き製粉】
江戸時代中期になって回転式石臼が一般的に広まるまで、弥生時代から脈々と製粉を担ってきたのが、胴臼に入れた穀物を杵で搗く「胴搗き(どうづき)」製粉でした。今でもわずかに取り入れている製粉所がありますが、ほとんど見られなりました。
まとめ
このように、ソバ粉についてタネから製粉までを追ってきましたが、いかがだったでしょうか。
ひとつのタネの中に、さまざまな個性を持った層があり、それらをどう活かすかという原料選びだけはなく、挽き方にも、フルイの目やかけ方にも種類や方法があり、その何通りにも及ぶ選択肢の組み合わせによって、ソバ粉は設計されていることが分かりますよね!
ひと言で「ソバ粉」といっても、ひと言ではとても表現できないほどの宇宙が見えます♡
「わたしの好きなあのお店のお蕎麦は、どんなソバ粉だろう?」
と気になったり、
「あぁ、だからこのお蕎麦は、ツルっと喉越しがいいんだ!」
と納得したり、何かしらソバへ思いを寄せる材料になっていましたら、最高に嬉しいです。
「そこ、違うよ?」大々歓迎です!
contactからぜひ。
これまでに挙げたものはあくまでもソバ粉の一部で、各地の蕎麦店で頂けるお蕎麦は氷山の一角、当てはまらないソバ粉が無数にあります。
各製粉所を眺めていると、セオリーを元に従来の安定した品質を保ついっぽうで、「どうしたら、もっと良くなるか」「どうしたら、もっと面白いソバ粉が生み出せるか」を考えていらっしゃるのをよく感じます。
蕎麦切りは、遡れるだけでも江戸時代以前から続く食べ物です。
蕎麦に関する技術は、江戸時代にほぼ確立されたと言っていい分野だと思いますが、時代とともに道具も化学も技術も進歩しています。まさに、長い年月をかけて積み重ねられた職人さんたちの努力の結集を、わたしたちは頂いているんですね。
それを想像するだけでも、300年以上にわたる蕎麦の歴史そのものが、脳に流れ込み、身体を駆け巡るのを感じます。
実際のところ、ソバ粉や蕎麦からその製粉方法を正確にたどるのは至難の業ですが、五感を使ってその違いを感じ取り、「どんな蕎麦になるのか」「どんなソバ粉なのか」を想像するだけでも、蕎麦の楽しみ方はぐっと広がるように思います。
そして、そうしたストーリーとともに体感する蕎麦打ちや、ひと手繰りごとの味わいは、まさに何人たりとも踏み込めないオンリーワンなプライスレスなもので、目の前に現れた蕎麦の数だけ存在するように思います。
ご協力くださった製粉会社の皆さま、
お忙しい中にもかかわらず快く対応していただきましたこと、心より感謝いたしますとともに、深くお礼申し上げます。



